たとえば狂愛だったとしても

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 だけど、ぽこん、と軽くて優しいお父さんのげんこつが待っていた。 「いたぁい」 「ちゃんと信号は、右見て左見て渡りましょうって約束してるのに! 急に飛び出すなんて!」 「わぁぁぁん、ごめんなさぁいぃぃぃぃ」  ふわぁぁんと元気よく泣く翔太が可愛くて、やれやれと頭を撫でてやりながら。  さて司にどうやって連絡とろうかと悩み始めた時だ。 「ちょっと! 走らないでください!」  看護師さんらしき人の怒る声を無視して 「そうまっ」  もう泣いてる顔が、飛び込んできた。 ***** 「まずね、瀧川くんはホントに無事だから。安心してね」 「っ……、ん」  こくこくと、乱れた呼吸のまま滲んで見える新海さんに頷いて見せたら。  よしよしと優しく笑った新海さんが、口元に紙袋をあてがってとんとんと背中を優しく叩いてくれた。 「大丈夫。上手に出来てるから。もう少し、ゆっくり。……そう、落ち着いてね」  背中を叩くゆっくりとした優しいリズムに合わせて、息を吸って吐く真似を繰り返す内に、真っ暗になっていた視界に光が戻ってくる。 「ん、よしよし。もう大丈夫そうかな」  にこりと笑った新海さんは、オレの様子を見てホッとした息を吐いて、紙袋をそっと机の上に置いた。 「あたしは、新海ね。新海千春(ちはる)。君は? 瀧川くんのお友達、だよね?」 「藤澤、司です。──っ、あの、そのっ……颯真は!?」  こくん、と頷いた後に名乗って、掴みかかりたい衝動を抑えながら忙しなく尋ねたのに。  大丈夫だよ、と笑った新海さんが、ぽんぽんと頭を叩いてくれた。 「事故に巻き込まれそうになった男の子を助けようとして、足をすりむいちゃったっていう話みたいなの。連絡も本人からきたそうだし、大丈夫よ」 「────っ」  よかった、と声にならなかった言葉を、大きな溜め息と一緒に吐き出す。
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