たとえば狂愛だったとしても

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「…………病院、教えましょうか?」 「ぇ?」 「今すぐ会いたいってカオ、してる」 「っ」  にこりと意味深に笑った新海さんが、待っててと席を外して、またすぐに戻ってきた。 「……瀧川くんね。少し前まで、ずーっとご機嫌でね。ホントに楽しそうにバイトして、楽しそうに帰って行ってたんだけど。……ここんとこ、凄まじく荒んでたの。なんかあったんだろうなって心配してたんだけど。……今日、藤澤くんがここに来たってことは、仲直りしたってことなんでしょう?」 「ぁ、の……」 「心配しないで。誰にも言わない」 「……」 「誰かが誰かに恋をするのは、とても勇気のいることだし。誰かと誰かが結ばれるのは、尊いことよ。男だとか女だとか関係なくね」 「ぁ……」  ふふ、と笑った新海さんが、店長の走り書きだから読み辛いけど、と小さなメモ用紙を渡してくれた。 「瀧川くんを、よろしくね」 「──ぁ……はい」  さっと目を通した病院の名前は、章悟が運ばれたのと同じ病院で。また乱れかけた呼吸は、だけど新海さんが頭に載せてくれた手の平で何とか持ち直す。  震えそうになった足で立ち上がったら、ぺこりと頭を下げて駆けだした。 *****  その場で泣き出しそうになっていた司は、だけど翔太に、つかさだと笑われてキョトンとしている内に泣き損ねたみたいで。 「ぇ? 翔太?」 「つかさ」  はしゃぐ翔太にじゃれつかれてぽかんとオレをみた司の顔が、安堵と混乱にオロオロするのを見つけたら、ふっと心が和んだ。 「ごめんね司。心配かけちゃったね」 「ぁ……ぇと……」 「誰かにオレのこと聞いたの? 新海さん?」 「ぇと、あの」  困惑気味に頷こうとした司を。  遮ったのは、元気よく手を上げた翔太だ。 「はーい」 「へ?」 「…………あの……新海って?」  黙ってオレ達のことを見ていたお父さんまでもが、窺う目でそう口を開いて。 「バイト先に、新海さんていう、先輩がいて……」 「…………もしかして、コンビニ?」 「はい……?」 「………妻ですね、たぶん」 「はぃ!?」 「そうか、後輩に瀧川くんてイケメンがいるんだって、はしゃいでたんですよ。さっき名前聞いた時、どっかで聞いた名前だなって思ってたんですけど」  世間は狭いですねぇ、ホントにイケメンだし、とのほほんと笑ったお父さんは。  だけどはっとして青ざめた。 「……オレ、嫁に連絡してないや」 *****
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