たとえば狂愛だったとしても

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「でも、オレも、ごめんなさい」 「司?」 「そうまの、言うとおりだった。……オレ、ずっと、……まだ、全然逃げてた。……章悟と颯真は違うのに。……章悟がいなくなったから、颯真もいなくなるかもって、……恐くて、逃げてた」 「つかさ……」  ごめんなさいと、ボロボロ泣く司を。  結局、──堪らずに抱き締める。 「そっ……ここ、外だよっ」 「いいから」 「そうまっ」 「いいから!」  慌てて離れようとした司を、強引に抱き締めて離すまいと腕の中に閉じ込める。 「オレだって恐かったよ。……条件反射で飛び出して、翔太のこと抱えた時。……死ぬかもって、思った時。……もう二度と、司に逢えないかもって思った時。……恐くて恐くて、どうしようもなかった」 「そうま……」  ぎゅうときつく抱き締めた司の肩に顔を伏せたのは、滲んだ涙を隠すためだったのに。  気付いたらしい司の手の平は、オレの頭をそっと撫でてくれた。 「だけど、もっと恐かったのは」 「うん?」 「司と喧嘩したまま……二度と逢えなくなったら、どうしようって」 「……うん」 「また、司が……あんな哀しい目で独りになるなんて……一人で遺してくなんて、耐えられないって思ったんだ」 「そうま……」  そっと淋しそうに笑った司が、頭をぎこちなく撫でてくれる手のひらを感じながら。  ぎゅっと目を閉じて、司を抱く腕に力を込める。 「オレも、恐い。…………──オレ、自分が恐い」 「……そうま?」 「連れてけないとか言ったくせに……どっかで生きてて欲しいって思うとか、綺麗事言ったくせに……あんな淋しがる司を置いてくくらいなら……、連れてくって思ったんだ」  ──そう。  あのバイクの前に飛び出した瞬間、今すぐ司を連れて一緒にいきたいと思ってしまった。  独りにするくらいなら、──殺してでも一緒にと思った自分の。  これは、本当に愛なのだろうか。
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