皆川編 偽装契約

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うちの社が主催する商品開発セミナーの日、僕は取引先との打ち合わせを終えたあと、少し遅れて会場入りした。 「今日は横山氏ですもんね」 「ああ」 会場隅のドアから静かに入り事務局席につくと、事務局主担当の部下が僕にレジュメを渡しながらヒソヒソと声をかけてきた。 講師選定に携わったとはいえ、僕自身が事務局業務をがっつり担当している訳ではないので、通常はあまり会場入りしない。 選定段階で興味深かった講師、付き合いのある講師の月に顔を出す程度だ。 今月は年間12回の中でもかなりベテランの講師だ。 同じテーマでも毎回話題を変えてくるので聞き飽きない。 僕のイレギュラーな出席に、部下は当然納得という風だったが、しかし実のところ、僕自身は百パーセント講演だけが理由かと言えば少し怪しかった。 迷子を再捕獲する狙いがあったのだ。
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