皆川編 偽装契約

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「でも……もう将来の話をしてるのに、今さら望みを持っても無駄じゃないでしょうか」 「将来の話云々は、僕は眉唾ものだと思いますね。安定した人間は他人を攻撃しない」 効果を気にし始めたということは、偽装への抵抗は越えたということ。 「職場で余計な気を張らなくて済む。うまくいけば、東条主任に女として意識してもらえる。一石二鳥なのでは?」 ちょうどいい案配に、僕たちの頭上で空調の音が止まった。 「切れましたね」 立ち上がり、彼女を見下ろした。 たかだか空調が切れただけ、部屋の使用時限が来ただけで、別にこの後こんな夜分にホールを使用する部門はない。 “このCMから三十分以内にお申し込みのお客様には……” タイムリミットで急かすのはTVショッピングによくある手法だ。 毎日“三十分以内に”と叫んでいるのだから節操がない。 まあ僕も似たようなものだけど。
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