染まる

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吐く息が熱い。 一日看病をしたくらいでと思って油断をしていた。 病人と同じ空気を吸っていればうつっても仕方がないことと何故思い至らなかったのだろう。 けれど思うに、感染とは気付いてしまってからでは全くの手遅れなのだ。健常に思われているうちでも病は身の内に潜伏しているのみに過ぎない。 症状が現れて初めて感染したことが己の知るところとなるのだ。 そんなことを熱っぽい頭で考える。 そしてそれはきっと風邪だけに限ったことではない。 朦朧とした意識の向こうにカーテンからのぞく彼女の満面の笑みが現れては消える。 彼女の部屋には彼女の彼への恋心が充満している。僕はその彼女の部屋にいて、同じ空気を吸っている。 ならば僕もあの狂ったような恋の病にいつ発症してもおかしくはない。 今僕を苦しめているこの風邪のように。 その時、僕の感情はどこへ向くのだろうか。 そんなことを考える僕は、つまりとっくに手遅れなのだ。 【終】
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