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ビルの廊下の左側はトイレ前で混み合っていた。右には小さなコンビニが出来ていて、その店の横に自販機コーナーがあり、円形のベンチが置かれている。そこへユートは進んでいった。
すとん、とユートがベンチに腰をおろした。コンビニの中は混み合っているようだったが、ベンチの周辺はまだ人影がまばらだった。
ユートはそこで自分のかつての源氏名を言い当てた男をひややかににらんできた。誠一郎は、彼が突然不機嫌になった理由が、いまだに理解できていなかった。
「そう。当たりだよ。でもあんた、俺の太客じゃなかっただろ?」
「ふ、ふと……?」
「お得意さん、てことだよ。何度もリピートしてくれた客なら、俺だってちゃんと覚えてるよ。でも記憶にないってことは、一度きりのひやかしみたいな客だろ」
「あ、ああ、そうです」
誠一郎は過去に一度だけ、ユートを指名したきりだ。ひと晩だけ、一緒に過ごしてもらった。なにもかもすてばちになっていた最低の夜にだ。
「で? どうすんの? 準備してねえから今すぐケツは無理だけど、口でしゃぶればいい? 俺もう時間無いから、あそこでいいか?」
ユートが視線でしめすのはトイレの方向だ。混んでいるのは女性用トイレで、男性用はひっそりとしている。個室でことにおよぶか? とたずねているのだ。
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