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ヤれない事情
頭が痛い。
目を閉じたままでも、まぶしい光に顔を照らされているのがわかる。まぶたを通して頭の奥に刺さるような光だ。
優人は右手の甲を目の上に載せた。頭がずきずきする。フラッシュバックのように昨夜の記憶の断片がよみがえった。絶頂から急降下のブラックアウト。そこから優人の意識をひきもどしたたのは、激しい怒号と言い争う声。悲鳴。泣くような声。
タクシーの車内。ぐったりとしてシートの横たわり、車窓から見た泥水みたいな夜空。運転手の心配そうな声。
ふらふら歩き、植え込みにかがんで嘔吐したこと。ペットボトルの水。新品のタオル。それから――
それから?
左手で周囲をさぐると、カバーのかかった布団に触れた。そこで自分があたたかい布団につつまれていることに気がついた。
うっすらをまぶたを開いた。
最初かすんでいた視界が、手動でピントを合わせるように、しだいにはっきりとしてくる。白いクロスを貼った天井がみえた。古ぼけて、ちょっと黄ばんだシーリングライト。
見覚えはある。でも自分の部屋ではないな、と優人は思う。首をひねって横をむこうとすると、ぱりぱりと音がした。レジ袋をかけた洗面器が顔のわきに置いてある。
そっとどけて、室内を見まわした。
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