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「ずっと迷ってました。病院に連れて行ったほうがいいのか。でも内藤さんが、『全部吐いたならしばらく様子みてもいい、おおごとにしないほうが本人のためにもいいだろう』っていうので」
コップを持ったまま優人は目を丸くした。
「あの、でも、もし動悸や呼吸困難が起こったら、すぐ救急車呼ぶようにって」
「……穂積のこと? 内藤さんって」
「ああ、そうです。ユートさんの職場の人です」
「穂積に会ったの?」
誠一郎の顔がまた不安に曇った。
「全然覚えてないんですか?」
おそるおそるたずねる。
「電話のあと、ほとんど覚えて、ない」
誠一郎はしばらく言葉を失い、すぐ微笑んだ。
「そう、ですか。そのほうがいいです。やなことはもう忘れましょう」
強がりの透けるやさしい笑顔でいった。
「でも、なかったことにはなんないよ」
「ユートさん?」
「竹林くん、両手出して」
誠一郎は熱いものに触れたようにさっと手をひっこめた。そのわかりやすい反応に優人は苦笑してしまいそうになる。
「ちゃんと見せて。俺になにがあったか説明して。さっき部屋のすみでひとりで、めちゃめちゃ反省してたでしょ」
優人はざらついた声でいった。思わず顔をしかめた。喉をひっかくような痛みがあった。誠一郎がまた心配そうな顔になる。
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