ヤれない事情

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「そこが勤務先なんだなあって覚えてたんです。昨夜はひとり、部屋の中でずっと自分の携帯をみつめていました。トイレにいくのも、お風呂に入るのも携帯と一緒でした。いつユートさんから電話があってもちゃんと出られるようにって。女々しいくらい必死でした。そのうち、だんだん不安になって、焦れてきて、我慢できなくなって。  強がってかっこつけて、俺はなんてバカなこといったんだろうって後悔しました。きっと――きっと僕より魅力的な男なんていくらでもいるのに。もっとユートさんが気楽に楽しくつきあえる人がいるんだろうに。なんで俺は『行かないでください』って素直にいわなかったんだろうって。  そう思ったら、いますぐそれを伝えなくちゃって。いてもたってもいられなくなってしまって。それでユートさんの携帯に電話しました」 そこで誠一郎は自分を落ち着かせるように大きくため息をついた。優人はいたたまれなくなって、ベッドの上で身を縮めた。 「ユートさんの携帯に電話して、そしたらあの……あの状況で、僕は頭に血がのぼって……すぐ駆けつけようと思ったんですけど、渋谷のクラブとしか場所を知らないことに気がつきました。それでひょっとして職場の人なら、ユートさんが普段行く場所を知ってるかもしれない、と思って。藁にもすがる思いだったんです。ネットで事業所の電話番号が調べられたのでかけました」
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