ヤれない事情

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 そこで誠一郎はくすりと笑った。 「でもよく考えたら、もう深夜だったんですよね。それでも電話は転送されて、内藤さんが受けてくれたんです」  穂積は会員の急な依頼のために、女性の事務員が帰ったあとは、自分の仕事用の携帯に事務所の電話が転送されるように設定している。それが機能したのだろう。 「ユートさんがピンチみたいだって説明したら、すぐにそのクラブに一緒に行ってくれることになって、渋谷でおちあいました」  そこで、誠一郎はふたたび真顔になった。忘れていた怒りを思いだしたように、拳をぎゅっと握りしめた。五指の付け根が赤黒くはれていた。 「僕も……正直いうとよく覚えてないんです。冷静じゃなかったので。会場に入って、ユートさんの名前を呼びながら内藤さんと探しました。内藤さんはホールで、僕は個室のほうをまわって……あなたが……ソファの上にうつぶせに倒れているのを見ました。その上に乗っかっていた裸の男に、思いっきり殴りかかっていて――」  優人は手をのばして、誠一郎の傷ついた拳にそっと触れた。申し訳なくて泣きたい気持ちだった。 「気がついたときは、内藤さんに後ろから羽交い締めにされていて。『そんな奴のことよりも、ユートの手当をしましょう』ってすごくおだやかにいわれて……やっと我にかえりました」
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