ヤれない事情

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「俺は……どんな感じだった?」 「内藤さんが大きな声をかけたら、一瞬目を開けたんですよ。で、『目がまわって気持ち悪い、立てない』っていったんです。店員に水をもらってトイレで吐かせました。内藤さんと一緒にユートさんを支えて、内藤さんはすごく慣れていて、ユートさんを後ろから抱きかかえて、みぞおちのところに手をあてて、ぐっと押しこんで吐かせるんです」 「ああ、二回目だからな」  優人はバツが悪そうにつぶやいた。 「しばらく便座にすわって休んだら、ユートさんの顔色がよくなってきたみたいだったので。タクシー呼んで帰ろうってことになりました。そしたら内藤さんが、今夜は僕に連れて帰ってほしいっていうんです」  誠一郎の目がじわりとうるんだ。 「内藤さんは最初から最後まで冷静でしっかりしてました。僕はあのとき、焦って、とりみだして、暴れて、おろおろして。いいとこなんかひとっつもなかったのに、内藤さんは『今後、ユートのことはあなたにお願いしたい』って言ってくれました。『時々バカみたいなことしでかすんだけど、ほんとはすげえ寂しがりやで、俺にとっては可愛い弟なんです。できるだけ長い間、大事にしてやってください』って深く頭をさげていわれて。僕は、気のきいた言葉もでなくて、ただ胸がいっぱいで何度も頭をさげて、ユートさんとタクシーでここまで帰ってきました」  優人は気恥ずかしさをごまかすように髪をかきあげた。 「穂積は、ろくでもないことになるのがわかってたのかもな。ずっと反対されてたんだ。ああいうイベントにはもう行くなって」
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