ヤれない事情

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 そして、優人もまた胸が苦しいような、せつないような気持ちになっているのに気がついた。嬉しくて、恥ずかしくて、そして嬉しい。 「穂積が竹林くんに、俺のこと頼むっていったのか。そうか。もう俺たち公認だな」  ぼっ、と誠一郎の顔が赤くなった。 「それより、その手」  誠一郎は、やっと観念したように、両手を伏せて優人の前にさしだした。優人はそっと下から持ちあげ、両方の頬で頬ずりした。愛しげに目を閉じて、じくじくと熱をもつ打撲痕をいつくしんだ。自然と涙がわいてきた。 「昨夜のことは、俺の考えが甘かった。俺が未熟な人間で、今までどんなに身勝手なことやってきたのか、身に染みてよくわかった。でも竹林くんがこんな――こんなことしちゃだめだ。自分を傷つけてまで、俺をかばうことなんてないんだ」  両手を頬にあてたまま、誠一郎の目を下から、じっとみあげた。誠一郎はひるまず、その目をみつめかえした。強い決意をこめた視線だった。 「僕のほうこそ、身勝手かもしれないんですけど……。ユートさんが、他の人に抱かれるなんてイヤなんです。絶対にイヤです。俺のものになってほしいです。もう誰にも、とられたくない。このことに関しては、冷静には考えられません」
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