803人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
ヤれない事情2
優人はまた少し眠り、やがてベッドからおきだしてローテーブルの前で食事をした。誠一郎が土鍋で炊いた粥は、生姜の香りのする鳥だしの中華粥だった。白髪ネギとクコの実をのせて、目の前にさしだされた。
テーブルの真ん中に、灰色の土鍋が鍋敷きとともにどかんと置かれて、蓋の穴から細く湯気がたっていた。優人は、れんげでつやのある白い表面をすくって、口へはこぶ。からっぽの胃にじんわりしみとおっていくうまみと、玄米のぷちぷちした食感が心地よかった。誠一郎もとなりで同じように粥をすすっている。
ふたりとも言葉は少なかったが、誠一郎のいたわりの気持ちは、部屋の中に日だまりのようにやわらかく満ちていた。
ベランダにつながる大きな窓から、昼の陽が明るくさしていた。優人が眠っているうちに誠一郎が干したのか、ベランダには洗濯物が揺れている。かすかに石けんの匂いがする。
優人はゆっくり食事をおえて、ごちそうさま、と両手をあわせた。そしてまだ食べている誠一郎のほうに、正面からむきあった。
「竹林くん、あのね、俺考えたんだけど、今度休暇とって保健所行くわ」
誠一郎の手がとまった。まだ意味がわからずにとまどった顔をしている。
最初のコメントを投稿しよう!