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ユートはぱちくり、と目をしばたいた。それから、苦々しい顔で誠一郎を見る。
「……お礼? お礼ってなんだよ? 体売っててくれてありがとうって言いたいの? あんたさあ」
「すみません!」
体を真っ二つに折る勢いで、誠一郎は頭を下げた。急激に頭に血がのぼり、一瞬くらりと足下がぐらつく。
しばらくそのままの体勢でいると、ユートが小さくため息をつくのが聞こえた。
「いいよ、もう顔あげて。なんか……俺も言い過ぎたわ」
おずおずと顔をあげた。視界の端では、何事かと遠巻きにながめている人々の姿があった。
「こんなん慣れたつもりだったけど、やっぱ動揺してんだな、俺」とユートは苦笑した。さびしげな笑い方だった。
「あ、あの、そういう人、けっこういるんですか。昔のことを持ち出して、その、あなたに、なにか要求する、とか」
ユートは小さくうなずいた。くしゃ、と煙草の箱が握りつぶされる音がした。
「あんたで四人目くらいかな。俺の客の数から考えたら、少ないほうじゃない?」
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