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「俺と竹林くんの感覚ってきっとだいぶ違うと思うんだ。そのことに俺もやっと気がついた。ウリ専のお店で働いていたときは、マネージャーから検査受けろってうるさくいわれててさ。二ヶ月か三ヶ月に一度は仕方なく受けてたんだけど。辞めてからは、自分から受けたことなかったから。だから、その、HIVとか性病とか、そういうのひととおり検査受けてくるわ。でその結果が出て、俺の身の潔白が証明されたら、そしたら――」
心置きなくセックスしよう、というはずの最後のひとことが、なぜか急に気恥ずかしくなって優人は思わず目をおよがせた。
誠一郎が咳きこんだ。あわててティッシュをとって口元をぬぐう。
「ちょっ、大丈夫?」
「いや、あの、そうじゃないんです。僕が手を出さないのは、そういうことじゃないんです。ユートさんじゃなくて、僕が――僕に、問題があるんです」
誠一郎はいそいで残りの粥をかきこんだ。
「僕も、ちゃんとお話します」
誠一郎が食器を片付けてキッチンからもどってきた。背後のキッチンから、コーヒーのいい香りがした。こぽこぽとコーヒーメーカーが滴を落とす音が、静かな室内に平和に響いている。
誠一郎はハンカチを出した。細く折って目にあてた。
「顔を見ながらだと、恐くて話せなくなってしまうかもしれないので、こうしておきます。もしも全部きいて、ユートさんがこれ以上僕とつきあっていくのが無理だって思ったら、この部屋からそっと出て行ってください。もし平気だったら――僕の前にいてください」
祈るようにそういう誠一郎の顔は、ハンカチの下の部分だけでもわかるくらいすでに蒼白になっていた。
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