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「今まで、にえきらない態度ですみませんでした。でもどうしても、簡単にセックスはできません。僕は――じつは、HBVのキャリアなんです」
血の気を失って震える唇がつむいだのは、聞き慣れない言葉だった。
「HBV?」
「B型肝炎ウイルスのことです。ユートさん、バイオハザードとか、感染症パンデミック系のパニック映画とか見たことありますか?
ああいうのに、ウイルスのワクチン開発の鍵として『キャリア』と呼ばれる人や動物が登場するんですが。キャリアとは、ウイルスに感染してるんだけど体内で自力で抗体を作れるようになって発症することのない個体のことなんです。
B型肝炎ウイルスの場合はだいたい三歳以下で感染すると、自然に抗体ができて、急性肝炎を発症せずにキャリアになるといわれています」
「竹林くんは、そんな小さな頃に感染したってこと?」
「僕の場合は、生まれたときに母子感染したので、ほぼ生まれつきみたいなものです。母親はどこで感染したのかわかりません。若い頃の交際相手かもしれませんし、子どものころ輸血をともなう外科手術をしたこともあるらしいので、そっちかもしれません。
B型肝炎の感染者は現在、成人の百人に一人といわれています。その中には、僕みたいなキャリアも含まれます。数年前から、ワクチンが新生児の定期接種に指定されたので、今後はどんどん減っていくと思いますが。
母は……このことにすごく責任を感じています。母はできるかぎりのことをしてくれました。母子感染を防ぐ処置をしてくれるという病院での出産だったんですが……それでも百パーセント安全ってわけではないんですよ」
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