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誠一郎は見えている口元だけで、苦しげに話した。唇がひくついている。
「僕自身はキャリアなので、すぐに病気として発症することはありません。でも僕の血液や精液、傷口の接触をとおして誰かに感染させることはあります。そしてその相手は急性肝炎を発症する可能性があります」
優人はしばらく言葉を失っていた。
「……そしたら、竹林くんは一生セックスできないの?」
「セックスだけじゃないです。ディープキスもダメです。唾液や涙、汗だけで感染することはありませんが、口の中にはよく傷があるものなんです。だから、僕は喧嘩もしちゃいけないんです。僕の血液が人の傷口に触れるようなことがあったら、相手に感染させてしまうかもしれないからです。激しいコンタクトのあるスポーツも危険です」
優人は頭の処理が追いつかず、ぽかんと口を開けて、目隠しした誠一郎の顔をみていることしかできない。
「ただ、まったくそういうことができないわけじゃないんです。抗体のある相手となら、できます」
「抗体のある相手って、同じキャリアの人ってこと?」
「いえいえ、そんな限定じゃなくって。あらかじめ予防接種を受けてHBVの抗体をつくっている人とだったら、感染させずにできるんです」
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