804人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
優人はやっと難問が解けた生徒のように微笑んだ。
「ってことは、俺がそのワクチンの接種をうければいいの?」
「注射、三回ですけど」
「なんだ、できるんじゃん」
優人はこわばっていた顔をゆるめた。誠一郎はあいかわらず、目隠しをしたままだ。眉のあいだに深い溝が刻まれている。
「ユートさん、恐く、ないですか」
「なに? 注射? たしかに三本は多いけど……子どもじゃないんだし」
苦笑しながらいう優人に、誠一郎は苦悩の色濃い声をしぼる。
「ちゅ、注射じゃなくて。……僕が、恐くないですか。こうやって近くにいるの、ぞっとしませんか」
優人はぴたりと笑うのをやめた。
「なにいってんの?」
真剣な顔になった。誠一郎のハンカチをおさえている手も震えていた。唇の隙間から、浅い息がもれる。誠一郎は必死で恐怖と戦っている。
「そんな病原体みたいな奴と今まで食事してたって考えると、恐くなりませんか」
「え……」
最初のコメントを投稿しよう!