ヤれない事情2

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「自分でも、こんな自分がイヤです……でもどうしようもできないんですよ。ものごころついたときには、そういうふうに生まれついてたんですから。でもやっぱり……恐いですよね。僕なんかに、体を触れられたくないですよね」  誠一郎は、拒絶されることへの予防線をはるように、自分で自分を侮蔑するような言葉をかさねる。傷つくことにおびえる心が、心とは正反対の言葉を吐かせているようだった。  優人には、「もう傷つきたくない」と叫ぶ誠一郎の心の悲鳴のようにきこえた。 「竹林くん、それ以上いうと俺、怒るよ」  優人はつつみこむようにいった。  もっと優しい声を出したい。おびえている誠一郎の心をじかに撫でてあげられるような、あたたかい声で安心させてやりたい。なのに、今日はかすれて痛々しい声しか出ないのだ。  優人は誠一郎の頬に触れた。びくっと誠一郎が身をひこうとする。その頬を両手でつつんだ。誠一郎は両方の耳の前で、目にあてたハンカチを押さえている。優人は腰をうかせた。まえかがみになり、泣き出しそうに息を乱す彼の鼻に自分の鼻をそっとこすりつけた。  動物同士の親愛の表現のように、愛しげに顔をすりよせる。 「恐くないよ。今だって竹林くんは、竹林くんだよ。……ほら、全然、恐くない」  小さな子にいいきかせるように、ゆっくりと告げた。お互いの吐息が触れあう。  ひいっ、と誠一郎の喉の奥で、短い悲鳴のような声がした。顎と頬の震えが大きくなって、ハンカチの下辺にしみができた。  優人がその肩に両手を置くと、誠一郎は声もなく静かに肩を震わせて泣いていた。
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