ヤれない事情2

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「竹林くんはさ、そんなときでもフーゾク嬢を抱こうとは思わなかったし、ウリ専の俺ともハグだけですませたんだ。『誰かにうつしてやりたい』とか思わなかったんだ」 「思うわけないです。こんな人生……僕だけで充分ですっ!」  とうとうテーブルの上にハンカチごと顔を伏せて、誠一郎は泣き出した。広い背中を丸める。肩が上下に揺れている。 「ユートさんとだって、セックスしたかったです。はじめてこの部屋に泊まってくれた日、自分からエスコートもできない野暮ったい僕を、積極的にベッドに誘ってくれて、すごくうれしかった。夢見心地でした。でもキス以上のことをするためには、ユートさんに抗体があるかどうかたずねなくちゃならない。たずねたら、僕がウイルスキャリアだってうちあけなければならない。感染のリスクがあることもお話しなくちゃならない。  でも、うちあけたら――また嫌われて、全部だめになってしまうかもしれない。こんなふうに、一緒にご飯食べて、たわいのない話をして。ユートさんと過ごすこんな日が、僕にはすごく楽しかったから。もう少しだけ続いてほしかったから。ぐずぐずしてうちあけられませんでした。セックスやディープキスさえしなければ、このまま一緒に過ごせるのにって……自分をだましてだまして、ここまできました」  誠一郎は顔をあげた。濡れたハンカチはテーブルの上におちていた。赤くなった眼でまっすぐ優人をとらえた。肩を動かして一度大きく呼吸し、宣言する。 「でも昨夜、ユートさんを他の人に奪われそうになって、やっと目が覚めました。ユートさんがほしいです。そろそろ僕は限界です」
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