805人が本棚に入れています
本棚に追加
誠一郎の部屋につくなり、優人は自分の鞄から小さく折りたたんだ紙切れをとりだした。玄関に立ってまだ靴もはいたまま、縦に細長いその紙をひろげて誇らしげに誠一郎に見せた。
「血液検査の結果出ました~」
「ど、どうでした」
「全部マイナス。安心して」
茶色の髪を揺らして、にこっと微笑んだ。午前中に保健所に寄ったのだった。昼間からこの結果を早く誠一郎にしらせたくて、うずうずしていた。
今日の夜はまた誠一郎と夕食を一緒にする約束をしていた。優人はもうすっかり道順を覚えていて、仕事が終わりしだいたずねていくことになっていた。
玄関に出迎えに出てきた誠一郎が、竹のターナーを持ったまま目を細め、へにゃっと眉を下げた。
「よかったです」
優人は後ろ手でドアを閉め、いそいで靴を脱いで廊下にあがった。誠一郎の肩に手をかけ、背伸びをしてあごの先にキスをする。ほんのすこしだけ伸びた髭がざらりと唇に触れた。
「あ、ちょっ」
それだけであわてふためく誠一郎を廊下に残して、居間のほうへすすむ。
最初のコメントを投稿しよう!