ヤれない事情2

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 誠一郎の部屋につくなり、優人は自分の鞄から小さく折りたたんだ紙切れをとりだした。玄関に立ってまだ靴もはいたまま、縦に細長いその紙をひろげて誇らしげに誠一郎に見せた。 「血液検査の結果出ました~」 「ど、どうでした」 「全部マイナス。安心して」  茶色の髪を揺らして、にこっと微笑んだ。午前中に保健所に寄ったのだった。昼間からこの結果を早く誠一郎にしらせたくて、うずうずしていた。  今日の夜はまた誠一郎と夕食を一緒にする約束をしていた。優人はもうすっかり道順を覚えていて、仕事が終わりしだいたずねていくことになっていた。  玄関に出迎えに出てきた誠一郎が、竹のターナーを持ったまま目を細め、へにゃっと眉を下げた。 「よかったです」  優人は後ろ手でドアを閉め、いそいで靴を脱いで廊下にあがった。誠一郎の肩に手をかけ、背伸びをしてあごの先にキスをする。ほんのすこしだけ伸びた髭がざらりと唇に触れた。 「あ、ちょっ」  それだけであわてふためく誠一郎を廊下に残して、居間のほうへすすむ。
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