805人が本棚に入れています
本棚に追加
「んん、今日は洋食の匂いがする」
「あ、昨日ビーフストロガノフを煮たんです」
説明しながら、誠一郎は指先で優人の触れた部分に、そうっと触れている。まるでそこに火傷でもしたかのように。
「それが今日のメインなの?」
「いいえ。メインはオムライスで。ストロガノフはソースですよ」
「うわ、贅沢」
優人は誠一郎をふりかえった。
「そんなに頑張らなくてもいいのに……」
「僕が楽しいんですよ」
「オムライス、好きだよ」
「そんな気がしてました」
「俺がガキっぽいから?」
「無邪気だからです」
ぽんぽんといいあって、自然に静かになった。なんとなくみつめあっていると、優人はふたりの間の距離が気になってしまう。
恋人同士なのだから、愛しいと思ったらすぐに近づいて、触れられるはずなのだ。でも今はまだ遠慮と我慢がある。
最初のコメントを投稿しよう!