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「竹林くん、俺ね今日、一本目打ってもらってきた」
優人は肘の内側に貼られた小さな白いテープを見せる。笑顔だった誠一郎が真顔になった。
「三週間後に、二回目。また三週間後に三回目。そのあと三週間たったら抗体ができてるって」
覚悟はしていたが、抗体ができるまでがひどく長く感じてしまう。
「すみません」
誠一郎がうなだれた。
「謝らないで」
夕食は誠一郎が、シェフよろしくフライパンを振ってまとめたオムライスだった。きれいな黄色の生地で包まれたご飯を見ると、ずいぶん練習をしたんじゃないかと優人は思い、もうしわけないようなくすぐったい気持ちになる。
スプーンを入れると、とろりとした内部の卵液とチキンライス、デミグラスソースで煮たストロガノフが混ざりあった。
幸福な夕食を過ごした。誠一郎のつくってくれるものははずれがない。それはたまたまなのだろうか。
優人が彼を好いているからなにを食べてもおいしいのか。あるいは誠一郎が優人を好いていてくれるからうまくつくれるのか。とにかく不思議だと優人は思う。
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