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「じゃあ、寄りかかります?」
誠一郎が優人の肩を抱くように手をまわしてきた。自分の肩にそっと優人をおしつけようとする。そんな誠一郎の彼氏めいた行動が、優人は愛しくもあり、どこかおそろしくもある。
「竹林くん、みんなにそういう目で見られちゃうよ」
誰にも聞こえないように小声でささやく。
「かまいません」
誠一郎の手に力が入る。優人を守ろうとしてくれているようで、嬉しくなる。
「でも、もうすぐ実家の近くなんでしょ」
「もうちょっと距離ありますけど」
「知ってる人が乗ってくるかも」
「僕はそれでもいいんです」
「だめだよ」
優人はさりげなく誠一郎の腕をほどいた。
「だめ。悲しむ人がきっといるから」
「手をつなぐのも、ですか」
残念そうに誠一郎がこぼす。
「ふたりだけになったら、ね」
こころもちしょぼんとした誠一郎に、おだやかに笑いかけて優人はゆっくり目を閉じた。もうしばらくすると山梨県下吉田にある誠一郎の実家に着く。
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