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優人は目を閉じたものの、眠れずにいた。昨夜から、心臓が嫌な騒ぎ方をしてまったく眠れないのだ。今のうちに少しでも睡眠をとろうと思うのに、どうしても不安が胸にうずまいて落ち着かない。
「僕の実家に来ませんか」
いつもの家デートのときだった。その日はちょうど、優人が二本目のワクチンを終えた日だった。
夕食を終えて、シャワーを浴び、テレビをつけて見るともなくみつめていると。突然、誠一郎が夏休みの予定をたずねてきた。
営業職の誠一郎は客先の予定にあわせて、お盆の週に休みをとるという。一緒に休暇をとって遠出しませんか、と誘われて、二つ返事で応じたものの。
「実家って……」
「僕の母に会ってくれませんか。その……将来一緒に住むなら、そのほうが先々いいかと」
「ルームシェアの相手として?」
「いえ、恋人としてです」
きっぱりと誠一郎はいいきった。
「無理っ」
優人は即答した。
「無理、無理、無理、無理。重いよ、そんなの! 俺連れってって、いきなりカミングアウト? 責任とれないよ」
ぶんぶんと頭をふった。
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