ワクチン二本目、三本目

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「そんなに心配しなくても、僕の母はきっと喜んでくれると思います」 「いや、いやいや……」  優人は自分の過去を思いだし、ぶるっと身震いした。錯乱した母親に包丁を向けられたことは、今も優人のトラウマになっている。あの二の舞を誠一郎に演じさせるのは絶対にだめだと思った。 「嫌ですか」 「嫌っていうか……俺は恐いんだよ」 「僕はなにも恥ずかしいことなんかないですから。そんなにおびえないでください」  誠一郎はたのもしい笑顔で、優人の手をとってくれた。それでも、優人の恐怖は消えない。 「そうじゃないよ。お母さんは竹林くんの大切な人じゃん。たったひとりの肉親じゃん。その人を俺のせいでものすごく傷つけるかもしれないんだよ」  ぐっと、喉の奥から熱いものがせりあがってきた。顔が熱くなって、目と鼻から一気に水分があふれでた。 「そんなの、恐いよ。……おびえるに、きまってん、じゃん」  最後は涙声になった。いそいで腕できゅっと目元をぬぐった。誠一郎がぎゅっと抱きよせてくれる。 「俺はもう、恐い思い……したくない」  誠一郎が自分と同じように苦しむところを見たくなかった。
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