再会

4/16
前へ
/200ページ
次へ
「やっぱ、スーツに匂いがつくよねえ」  煙草を嫌がっていると思ったのか、彼は苦笑する。我にかえり、誠一郎はあわてて言った。 「いえ、僕は平気です。すみません、失礼します」  トレイをテーブルにおろす。さっきから空席を探してうろうろしていたのだ。彼もそれに気がついていたのだろう。  大型オフィスビルの地下一階。同じフロアに飲食店はいくつも入っていたが、手頃な値段で家庭的な食事のとれるこの店は、いつもすさまじい混み具合だった。カフェテリア方式で、待たされずにすむのも人気の理由だ。 「あー、鯖か。いいね。俺今度はそっちにしよっと」  誠一郎のトレイに載った鯖の煮付けを見て、彼は無邪気に笑う。黒目がちな目の端に、細い笑いジワが寄る。それを見て、誠一郎はなんとも言えない気持ちになった。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

805人が本棚に入れています
本棚に追加