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くだんの彼は、黙々と残ったキャベツを口に詰めこんでいた。心もち顔がけわしくなったのをみると、野菜が苦手なのかもしれない。
「え、ええと、このビルでおつとめなんですか」
わざわざ訊いたのは、スーツ姿であふれかえった店内で、彼の格好があまりにも自由でラフだったからだ。赤いTシャツにダメージジーンズ。片耳にはバッファローホーンのピアスをしている。
「まさか。俺は運転手でね。たまたまこのあたりにきたから」
赤いTシャツには「送迎おまかせ!こどもたくしー」と白で印字されていた。
そうか、今は運転手なのか。普通の仕事をしているのだ。誠一郎は、なにか胸につまったような感じがした。やっと腰をおろして箸を持ったというのに、なかなかご飯が喉をとおっていかない。
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