第5章 『運命赤笛』ルベルライトオカリナ

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「そりゃあもう! 任せてくだせぇ! ゲヘヘヘヘ」 「気分が悪い。その笑い方を止めろ」 「す、すいやせんッ!!」 馬車の後方には、荷物を入れる為の大きめの箱が設置されている。そこは、大人1人が入れそうな荷物入れになっており、汚ならしい男が大きな袋を担ぎ込もうとしているところだ。 「どっこいしょッ! この中身も、あっしが頂いてもいいんすかね?」 袋の中身は、ヴァンパイア族の男性が気絶した状態で入っている。先程この男に困ったふりをさせて、ヴァンパイアを町筋に誘い込ませたところで、意識を奪っておいた。念のためだが、魔法の行使と逃走出来ないように、口枷と手足の拘束を施してある。 「勝手にしろ」 「ありがとうごぜーやす!」 袋の中身も男に渡すつもりはない。何しろ袋に入れられたヴァンパイアは、バートリッヒ魔王国の運送業社の者である。表通りに停車してある豪華な装飾の馬車には、所々にバートリッヒ魔王国の刻印が彫られているのだ。その御者に手を出したと言うことは、5大魔王の1人バルバトロイ・バートリッヒに喧嘩を売ったようなものなのだろう。 その為、ワタシ達の仕業だと露見しないように、男にヴァンパイアを誘導させて、背後からの手刀で気絶してもらった。正体を見られていないだろうが、この作戦が失敗すれば戦争にすら発展しかねない状況なのだ。 気性の荒いワタシからすれば、このギリギリの綱渡りはどちらに転んでも構わない。慎重な者なら失敗したくないと、恐れて尻込みするのだろうが、そのような思いは一切ない。 何もしないまま停滞するよりも、何か行動を起こして進展するほうがいい。 ワタシはそんな性格だ。ただ足を踏み出し前に進む。 それが失敗し戦争になったとしてもだ。その結果、自分が死んだとしても、己の未熟さを恥じるだけで、弱いものが淘汰されるのは当然の摂理なのだ。 この世は、弱肉強食。ワタシは自分の命を軽く見ているのだろう。 「姉御。準備できやしたぜ!」 準備完了の知らせを受けると、軽く反動をつけてお尻を壁から離すと、馬車に向かって歩き出す。 「ああ。行くぞ」 「了解玉……ブフッ!」 「「……」」 ワタシはホークアイと馬車に乗り込み、汚ならしい男は御者台に座り手綱を握ると、馬達を発進させる。
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