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片方が欠けた共同照明の蛍光灯が照らす部屋は薄暗く、天井には地図のようなシミがいたるところに付いている。床にはゴミが散乱し、鼻を突くような悪臭さへ漂っていた。見るからに不衛生な部屋だ。
不快な環境に嫌気が差したのか、部屋の中央にある台の上で眠っていた者が目を覚ました。
(臭ッ……って、え? 何処だ……ここは?)
その者の見た目は三十代くらいと思われる男性で、華やかさや存在感の欠ける平凡な顔をしている。いわゆるパッとしない顔であった。
(予約したはずのホテルは、こんな汚くなかったはずだし。やっぱ知らない場所……だよな?)
ホロ酔い状態の彼は、現在自分の居る場所が何処なのか理解できていない。
まだ目覚めて間もないというのに、彼の頭部に痛みが走る。その痛みを物語るのは、後頭部から流れ落ちてできた小さな血溜まりだ。
「ふぐッ!」
(痛ッ!)
条件反射で自然と声が漏れるはずだったが、彼の口にかませられたものが発声を妨害する。
(な! 何だよこれ!? 口に何かくわえてる? 痛ッ! はあッ!?)
口にかませられたものを外す為に片手を動かしたようだが、両手首には手錠がかけられ台に固定されているので、腰の位置までしか手が上げられないようだ。慌てて動かした反動で、手首には瞬間的な痛みを感じ、冷たい手錠の鎖はジャラリと音を立ててしまう。
(……う、嘘だろ? これって、手錠もされてるのか?)
手錠は両手だけでなく両足にも同様に施されていた。それは彼が台の上にはりつけ状態なのを意味しており、誰が見ても危機的状況と認識するだろう。
彼は意識を失っている間に、知らない場所に運び込まれ拘束されていたのだ。
(何だよこの状況!? こんなの拉致されたみたいじゃ……)
このような状況に陥れば、人は悪足掻きするようにもがいてしまうのだろう。
「ふぐぅーッ!!」
(ふざけんなぁーッ!!)
静寂な部屋だからこそ、言葉にならない声と金属の擦れる音がよく響く。彼が暴れていなければ、雨漏りの水滴が床に落ちる小さな音さへも聞こえたたはずだ。
「ふぐーーッ! ふががががががーッ!?」
(誰かーーッ! 誰かいないのかーッ!?)
彼が暴れている間に、このような危機的状況に至るまでの経緯を説明しておこう。
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