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「?ええ……。相手が、あのクソ兄貴だと思うと最悪ですが、まぁ好きな人もいなかったので仕方なくですよ?」
「会いたいと思ったりするの?」
「姫様……何のご冗談ですか?笑えませんよ?」
シルフィーの声は、淡々とした口調でトゲがあるように聞こえるのだ。余程、お兄さんが嫌いなのだろうか?
「だって……。また飲みたくなるほど、血は美味しいものでしょ?」
「確か……。姫様の『純粋吸血』のお相手は、ルシファリス魔王国のグリム様でしたか?」
「え、ええ。そうよ?」
その名が、私を変えた人物の名前だ。
他人からその名を聞いただけで、鏡の前の私の頬には赤みがさした。流石は『純粋吸血』だ。スイーツよりも恐ろしい。
「それは、とても喜ばしいことです。」
「?……どういうこと?」
「全ての者が『純粋吸血』により、血を美味しく感じる訳ではないのですよ?私も兄の血からは、多少なりとも鉄の味がします。不味くはないですが、また飲みたいと思うほどではございません。死なないように用心して、2年に1度は吸い合うようにはしていますがね?」
「でも、お母様達は毎日のように吸血し合っているわ?」
「それは、バルバトロイ様とヘルゼ様の相性が大変良かったのですよ。」
「あ、相性がいいと……お、美味しく感じるの?」
シルフィーは化粧台にブラシを置くと、耳まで真っ赤にしてモジモジしている私の肩に手を乗せる。
「ええ……。それは勿論。蜜より甘く、バニラより香り、クリームより滑らかで。そして……スイーツより女子を虜にすると聞いております。」
そう優しく私の耳元で囁くのだ。私は、鏡に映る自分の姿ですら見れなくなってしまう。
「……。」
(じゃあ私は、グリムと凄く相性がいいってこと?)
「だ、駄目です!奥様!私!……もぅ我慢できません!」
鏡に映るシルフィーは、急に叫び出すと、まるで獲物を見つけた猛獣のように目の辺りがキラリと光り輝く。目を開けていないにも関わらずにだ。
「え!?」
「いいわ!私も、もう限界だったもの!」
私のクローゼットから飛び出して来たのは、鼻血を垂れ流している母だった。その血はポタポタと私の部屋のカーペットを真っ赤に染めていく。
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