第3章 『魔導黒鎧』ブラックナイト

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アルハザードが帰った後、黒髪で長髪の少女ような女性は、大広間の上段の間に設けられた席に腰を落ち着けていた。そこは、彼女の為だけに用意された王座だ。そんな彼女は、黄金の絵柄の入った座布団に座り、脇に置かれた紫の下地に多彩な花柄の描かれた脇息に肘を置いて休んでいる。 「ふぅ……。」 彼女の有する魔力量は膨大である。そんな魔力をほとんど使ってしまったのは久方ぶりだった。魔力全てを使いきった訳ではないが、枯渇ギリギリの状態は相当の疲労感があるのだ。 何故その膨大な魔力を、枯渇する直前まで使ってしまったのか?それは、予想だに出来ない相手に会ってしまったからだ。 メデューサ達の石化の瞳であれば、『石化耐性Ⅲ』以上の補助魔法で防げるレベルなのだが、彼女の石化の魔眼は別格だった。仮に使用したのが、『石化耐性Ⅴ』だとしてもそれは意味を成さい。何故なら耐性系の魔法は、肉体的に耐性を上昇させているだけであって、精神的に耐性が上がる魔法ではないからだ。つまり、彼女の魔眼の力に対して対策などは無駄なのだ。 だからこそ、彼女は自分の力に絶対的な自信を持っていた。誰1人として、この魔眼の呪いには耐えられず、逆らう者などいないと思っていたのだ。 だが、出会ってしまった。 絶対君主の目の前に、突如として現れた『黒い騎士』は、彼女の力に対して唯一の反逆者だったのだ。 彼女は、自分の力が相手に無効にされるなんて予想していなかった。それ故に、混乱し馬鹿の一つ覚えのように、同じ魔法を何度も放ってしまったのだ。その結果が、今の現状であった。 もしも、彼女が冷静に正攻法で戦っていたならば、結果は変わっていたのかもしれない。これは、自分の慢心が招いた結果だということを、彼女自身が一番理解していた。 だからこそ、彼女は余計に腹が立っているのだ。 「ナイトムーンさまぁ~!」 そんな不機嫌な彼女がいる大広間に、女性が急に駆け込んでくる。その女性は、頭から腰までが人間で、四肢が鳥の姿をしているのがすだれ越しに伺えた。その女性は、中段の間のすだれの前まで来ると立ち止まり正座をするのだ。声から察するに元気のいい娘である。 「……。御主という奴は!妾に何度言わせれば、気が済むのじゃーー!!」 「ひぃ~ん!ど、どうしたんですか?いきなり怒らないで下さいよ!?」
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