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「……確かに私にはその、臨機応変ってのが無理かもしれません」
渋々といった様子で彼女が承諾したのを聞き届けると、ようやく僕は満足し、香子からのSOSに戻る気になった。
「この電話でできればいいのですが、今から少し出る用事がありますので、日を改めて会いましょうか」
沈黙。
そして、かなりの間があいた。
電話で済むと思っていたのか、承諾したことを後悔しているのだろう。
実際、日を改めれば電話で済むのだけどそれは口にしてやらず、次の反応を待っていると、突如彼女が声を張り上げた。
「や、その、そうですよね、あはは!」
反応が意味不明に切羽詰まっているのは置いておき、嘘笑いがかなり下手だ。
「あの、それじゃ、ご都合のいい日によろしくお願いします」
「早い方がいいでしょうね。日が決まる前……急ですが、明後日では?」
「だっ、大丈夫です」
「じゃあ明後日、タイミングを見て連絡します」
迷子が逃れる手段を見いだす前にすかさず通話を切ると、僕はコートを羽織り、家を出た。
今頃、迷子は事の成り行きに頭を抱えているに違いない。
忍び笑いを漏らすと、香子の件に頭を切り替え、車のエンジンをかけた。
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