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「それならお互いに時間を気にせず仕事できるでしょう」
化粧の取れた鼻の頭を眺めながら、次回は仕事を口実にできないことを親切オブラートに包んで念押しした。
「僕の部屋の様子も頭に入るでしょうしね、恋人らしく」
彼女の顔が真っ赤になったのを見届けると、ようやく僕は解放してやる気になった。
「では、東条主任とのお仕事、頑張って下さい。あまり遅くならないように」
最後は嫌味で締め、愉快な気分で踵を返す。
しかし、電車の中で僕は首を捻っていた。
普段解放しないはずのエリアに、気づけば彼女を入れてしまっている。
あんな迷子に、なぜ調子が狂うのだろう?
仕事のためだけだと言い切るには無理があるのに、じゃあ何なのか明確に説明できない居心地の悪さが、しばらく僕の心の隅でくすぶっていた。
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