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かかりつけ医院の赤い本
かかりつけ医院の待合室にはマガジンラックが置かれていた。
予約の制度がない医院なので混雑することが多く、長時間待たされる際は置かれた雑誌を目にしていた。
そのラックの中に一冊、真っ赤な表紙の本が置かれていた。
大きさから雑誌でないことは判るが、どういうジャンルの本なのかはぱっと見には不明だ。
手に取ればいいのだが、かかりつけとはいえ、そう頻繁に医院に足を運ぶこともないし、他の雑誌に隠れているとつい見逃してしまうので、いまだにタイトルすら判らないままだ。
いつか機会があったら見てみよう。そんなことをずっと思っていたが、今日、その機会が訪れた。
来月赴く出張先にインフルエンザが蔓延していると聞き、私は予防接種のためにかかりつけ医院を訪ねた。
相変わらず待合室運んでいて、簡単に受信の順番は回ってきそうにない。
何か本でも読んでいよう。そう思ってマガジンラックに近づいた時、あの赤い本が目に止まった。
そうだ。今日は前から気になっていたこれを読んでみよう。そう思いながら真っ赤な本に手を伸ばす。その瞬間、
「だめですよ」
横からいきなりそう声をかけられ、私はそちらに顔を向けた。
そこにいたのは見覚えのない女性だった。服装は事務の人のものだが、これまではむろん、さっき受付をした時に持子の女性を見た覚えがない。
たまたまさっき対面しなかった、新人の事務の人だろうか。
そんなことを考えていると、女性はマガジンラックから赤い本を取り上げた。
「置かれているのが見えていても、この本は、あなたにはまだ必要のない品です」
よく判らない発言に戸惑っていると、マガジンラックに別の患者さんが近づいてきた。すると女性は相手を見るなり、赤い本をその人に手渡したのだ。
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