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「あ…」
何か言おうとしたが、本を渡す女性と渡された人の雰囲気が何だか重々しくて、私は別の雑誌を手に取り、空いた席へ向かった。
それからしばらく、赤い本と二人のやりとりは意識に残っていたのだが、いつしかそんなことを忘れかけた頃、母親が知り合いのお葬式に出向くことになった。
亡くなったのは母の友人の旦那さんで、最近不調を訴えるようになり、私も通っているあの医院へ赴いたのだが、重篤な病気があると診断され、すぐに大病院へかかり直したものの、その時には総てが手遅れで、あっという間に亡くなってしまったのだという。
その時は単純に、母の知り合いが亡くなったというだけのことだったが、それから暫く経ったある日、母がその友人に頼まれて、亡くなった旦那さんが映っているかもしれない写真を探していた際、見つけ出した写真に写っている人物を見て私は驚きを隠せなかった。
そこに映っていたのは、年こそ取っていたが、あの日、かかりつけ医院で事務の女性に赤い本を渡された人だったのだ。
あの時の女性の言葉や二人の姿が意識に甦り、それが私に一つの憶測を抱かせた。
かかりつけ医院に置かれていた真っ赤な本。もしやあれは、本来死期が迫っている人にしか見えず、手に取るのもそういった人だけなのではないだろうか。
あくまで憶測。自分だけの考えにすぎないけれど、自分の中に添う結論が出てしまった今、私はかかりつけに赴いても、決してあの赤色の本は手に取らない。のみならず、なるべく視界にも入れないようにしている。
かかりつけ医院の赤い本…完
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