針と糸と私

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ちくちくちくちく…… ちくちくちくちく…… 世の中とても便利になり、ミシンひとつでなんでも作れそうな世の中に。 けれども、いつまでも母は手でいろんなものを縫って、ばあちゃんのばあちゃんの話なんかをしてくれた。 『うちは昔から、縫い物をさせれば村で一番だったよ。速さと綺麗さでは群を抜いてた』 『私もさ、意地になって毎日縫ってた。すぐに比較されちまうからね』 そう言いながら玉結びをして糸を切る母は、村で一番だと人は言う。 『だけど時代はミシンかねえ……便利なんだろうけど、私にはこっちの方が合ってるよ』 わかる気がする。 だって母は胃袋じゃなく縫い力で父さんをおとしたからね。
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