第1章

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俺たちは無言のまま夜道を歩いた。 病院まで付いて来ていた後輩の存在に気付き、待合室で狼狽えたままの後輩に「心配無いから先に帰れ」と追い返した後、2人っきりでワンコの家までの道程を静かな暗闇となる中ゆっくり歩いていた。 俺は何て声を掛けていいか判らず頭の中が真っ白で、ただ茫然としていただけだが、ワンコは未だ顔色が優れない様子に加え、更に無表情で俯き加減にして周りなど見ていないようだった。 当然だろ。 いきなり『あなたは女です』と言われたようなものだ。 23年間[男]として生きてきたんだ。 突然[インターセックス]だと言われりゃ、誰だって戸惑うし、訳が判らず何も言えやしないだろ。 人気の無い住宅街でワンコの家が視界に迫ってきた頃、落ち着いて考えが纏められるようになるまでそっとして置こうと一人結論付けた俺に、ワンコが一息吐いて重々しく口を開いた。 「あのさ、オレ……時々今日みたいな事あったんだ」 「ん?」 「今日みたく酷いのは無かったんだけど、腹がすっげぇ痛くなったり、無性にイライラしたり……眠かったり……可笑しいなって、思う事はあったんだ」 ワンコの気落ちする声に、励ましていいのか同情していいのか判らない。 いや、同情するのは可笑しいだろ。 ワンコは俺にとって大切な親友…… 「オレさ、女……なんだな」 はっきりと聞こえた言葉に、心臓が跳ねた。
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