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「あのぉ……あれ、止めたほうが……」
「んあ?……もう少しほっとく……お前が止めれば?」
恐る恐る声を震わせて尋ねてくる後輩に俺は気の無い目を向けて返す。
「ええぇ……嫌ですよ、絶対巻き添え喰いますから」
嘆く様を見せて眉を下げる後輩に失笑してネオン煌めく立て看板に肘を付け、手のひらに顎を乗せて目の前の光景に呆れとも諦めとも取れる目を注ぐ。
この後輩の就職、卒業祝いを兼ねた飲み会の帰りだ。
俺の呆ける視線の先では、身長160㎝程の小柄なスレンダーボディを躍らせ、細くても筋肉を纏わり着かせた腕を奮い伸ばし、小振りな拳を捻り出す[ワンコ]が2人の男達と暴れている。
愛らしい目を吊り上げ、すうっと流れる鼻筋からぷっくりと柔らかそうな唇をきゅっ!と結び、栗色のボブショートなネコ毛が夜風を舞う。
《アレが男だぜ? 知らねぇとアアなるんだって》
溜め息を吐き出し藍に染まる空を仰ぐ。
夜でも明るいこの街から見上げる空は暗闇とはほど遠いが、強い光を放つ星は点々と宙(そら)を飾って瞬いていた。
《あ~あ、アイツが女ならなぁ……女にならねぇかな……》
親友と呼べるくらいの仲なのに、ふと過る邪な感情……いやいや、俺はゲイじゃない。
普通に女のコが好きなんだ。
バカバカしい呟きを心の中で唱えるように天を眺めていると、
「二度と現れんな!ボケッ!」
と荒々しく息巻くいつもの台詞が耳に届く。
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