第1章

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暴れた後のせいではなく、荒く呼吸を繰り返し青白い顔で苦悶の様を見せる。 ただ事ではないと感じた俺はワンコを支え、後ろで驚き戸惑う後輩に 「おい、病院! 近くで夜間診察してる病院探せ!」 と怒鳴った。 後輩はオロオロとしながらも震える手でスマホを繰り、現在地より最短にある救急病院の場所を告げてきた。 「ワンコ、立てるか?」 そう尋ねるが、ワンコは言葉を発する事も出来ないくらいに体を縮めて踞り、息を吐き出すだけで小さく震えて動けるようには見えなかった。 車なんか待っていられる余裕も考えもなく、俺は仕方なくワンコを抱えあげ、告げられた病院まで走る。 「ユ……ゴっ!」 微かに口にする音で恥ずかしくて嫌がっているのだと判るが、そんな事を言っている場合ではない。 抵抗する力も出せないほど弱ってんじゃねぇか! 声を無視して強張る俺の顔を見て、自分では何とも出来ないと諦めたのか、ワンコより数倍もの体躯をした俺の腕の中に大人しく収まり、体を預けてきた。 流れ落ちる脂汗が俺の服に染み込んで、腕や胸元に伝わる熱からワンコの尋常ではない様に気が焦る。 吐き出される息が弱々しく、男らしくいようと強がっていた姿とは真逆で見た目通りに華奢で小柄な体躯はやはり軽くて、目指す病院までの時間がやけに長く感じると共に心臓が高鳴り、逸る。
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