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機械屋敷のお嬢様
アンドロイドと人間がとても近くなってから、もう何年も過ぎた。
だから、アンドロイドも風邪を引くらしい。
「申し訳ありません、お嬢様の誕生日にこのような……」
横たわったまま『執事』は謝罪した。よくできた男性の合成音声が、青白いライトに照らされた機械だらけの調整室に響く。
「あなたが高熱を出して倒れた時は、本当にどうしようかと思ったわ」
それを聞いているのは執事の世話をする『お嬢様』だ。椅子に腰かけた彼女は微笑んで、執事の薄茶の瞳をのぞき込みながら黒髪を撫でる。彼女のまっすぐな淡い金の髪と白い肌が照らされている。レースのあしらわれた黒いドレスに身を包む彼女は、下手な人形よりよほど作り物のようだ。
「治ったのだから良いのよ」
「ありがとうございます」
執事は横たえられていた自分の体を起こし、自力で体のあちこちにつけられたケーブルを外した。はだけたシャツのボタンを留めながら、彼は状況を確認する。
調整室にいるのは『執事』と『お嬢様』の二人だけだ。部屋の中で聞こえるのは、二人の声と機材の音だけだ。
「だけど妙な話ね。あなたのセキュリティは完璧よ。それを抜いて、風邪を引かせるなんて」
「お嬢様、解析結果を拝見してもよろしいでしょうか」
お嬢様は手元のコンソールを軽く指先で叩き、青緑の画面を空中に出した。二人はずらりと並ぶ構文を、左から右へ流し読む。
「あなたの体に負荷を掛ける信号が送られたことは間違いないわね」
「対応はどうなさいましたか?」
「同じ信号を受け付けないようにはしたわ。出所をどうにかしないと無意味だけれども」
執事はかっちりとした黒いスーツに身を包み、横に置かれていた濃紺のタイを胸の前で締めた。お嬢様は青緑の瞳で満足そうにそれを眺め、椅子からぴょんと降りて立ち上がった。
「それでね、執事(彼女は彼をいつもbutlerと呼ぶ)。お願いがあるの」
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