機械屋敷のお嬢様

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「……何でしょうか、お嬢様?」  自分がはじき出した嫌な推測に、執事は言葉を詰まらせたが、お嬢様はまるで気にしなかった。 「昨日、あなたが行っていた場所に私を連れて行ってほしいの」 「い、いけません。お嬢様に何かあったら、亡き旦那様がお怒りになられます」 「でも母様は『知りたいことを躊躇ってはだめ』と私に遺したわ。それとも、私の許可もなく危ないところに行っていたの?」  人間のような慌て方をして、執事は両手をお嬢様に向けた。対して彼女は小柄な体で胸を張って、劇の演者のように、大げさに腰に手を当てる。 「これはあなたたちの主である、私の大事な仕事よ。付き合いなさい」 「お嬢様は本当に……ああ、日に日に奥方様に似てきていらっしゃる」 「あなたも、父様に似てきたわね。でも、こうなることは予測できたでしょう。あなたは私が生まれたその日から、私ときょうだいのように育ってきたんですもの」  視線をそらし、執事は頬を掻いた。彼には分かっていた。こう言い出したお嬢様は絶対に意見を曲げない。肩を落とし、彼は人工樹脂の唇を開く。 「分かりました。その代わり、外へ出るからには私から離れないでくださいね」 「当然よ。あなたが私から離れたら、壊れてしまうもの」  悪戯でもひらめいたかのような笑顔で、お嬢様は笑った。執事はため息をついて、あいまいな笑みを見せた。  二人は外へ出る準備を始めた。とはいっても、お嬢様がお気に入りの小さな兎のポーチを肩から下げて、執事が家用の革靴から外出用の仕込み靴に履き替えるだけだ。 「あなたとのお散歩なら、これがあれば十分だわ」  お嬢様は美しい百合の意匠がほどこされたリボルバーを愛しげに撫で、ポーチのベルトについたホルスターに差した。その隣で、執事はきちんと仕込み靴から刃が出るか確認をして、頷いた。
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