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「夕食までには戻りますからね」
「もちろん。メイドたちのお夕飯を台無しにしてはいけないもの」
二人は連れ立って、調整室から外へ出た。階段を上り、一階のロビーの片隅に出る。磨かれた白い金属プレートの床。埃ひとつない金属細工のシャンデリア。そして、二階へ続く鉄の階段。金属質ながら、古い様式のお屋敷に、生きた人間の気配はない。
ここで、お嬢様はたくさんの機械たちと暮らしていた。
丁度、二人はメイドの一体が買い物から帰ってきたところに鉢合わせた。
「お嬢様、どちらへ?」
「執事と散歩をしてくるわ。今日のお夕飯はなあに?」
「トマトリゾットです。お誕生日ですから、ケーキもご用意しています」
それを聞くと、お嬢様はぱっと表情を輝かせ、両の拳を胸の前で握った。
「やった。私、あなたの作る料理が好きよ。ケーキも楽しみだわ」
「ありがとうございます。お気をつけて。執事、お嬢様をお願いします」
「そちらも留守をお願いしますね」
メイドに見送られ、二人は玄関の両開きの扉を開いた。灰色の曇り空が二人を出迎える。
二人は手入れされた庭園を抜け、落ち葉ひとつない石畳を歩いた。鈍色に光る鉄の柵を押し開けば、屋敷の外だ。
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