とりあえず、出会わなきゃ

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一橋和樹(いちはし かずき)、24歳、数学教師。 赴任初日。 「担任の野村です」 童顔の体育教師が、人懐こい笑顔で迎えてくれる。 「よろしく、ね」 「一橋です。よろしくお願いいたします」 「あ、僕、バスケ部の顧問もやってるんで」 「ちょっと、多忙だけど」 「私立だから」 「監督は別にいて」 「過労死にはならないから、安心して」 野村先生が笑う。 笑えない。いや、笑うべきか。和樹は、微妙な笑みを浮かべる。 「キミ、あれでしょ」 「生徒会、狙ってるんでしょ」 さすが、もう、情報は出回っている。 「はい」 「うちのクラスの子だよね」 「ああ、はい、竹内さんにお願いしようかと」 職員室がざわっとする。予想内の出来事。 「キミ、知らないの?」 「知ってますよ」 「彼女が、ここの学園の理事の姪で」 「将来、ここの学園全部の管理を任されることくらい」 体育教師の野村先生が、俺をまじまじと見つめる。 「…がんばってね」 ええ。そのために、ここにきたんですから。 「逆玉狙いか」 誰かがボソッと呟いたのが、静かな職員室に響く。 初日以来、俺は裏で逆玉、と呼ばれるようになる。
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