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不思議と昔から、咲は俺が言葉にしなくても、俺の気持ちをくみ取ってくれる事があった。咲は俺が分かりやすいからと言っていたけれど、それは咲が優しいからだと思う。咲は自分に取り柄なんかないとたまにいうけれど、それは違う。咲が口下手なのは、適当な事を言って相手を傷つけたくないから。人が嫌いなんじゃないかというやつもいるけど、嫌いだったらそもそもそんな事は考えない。咲は人を大切にしたいと思うからこそ、あんな態度になってしまうんだと思う。不器用だけど、俺とは比べられないくらい優しいのが咲の良い所だ。だから俺も夏希ちゃんも水樹ちゃんも咲の近くにいたいんだと思う。
「咲ー!お風呂ぬるくなっちゃうわよー!」
「はーい」
どれくらい時間が経ったのかわらない。おばさんの声が聞こえてきた後、背中にあった温もりが静かに離れていった。
「お風呂入らないと」
「そ、そうだよな!じゃ俺もそろそろ帰らないと」
我に帰ると、先程までの行為が少し恥ずかしくて、部屋から出て行く咲の顔が見れなかった。
まだ残る背中の感触に鼓動がまたうるさくなり始めたが、その咲の温もりが、「大丈夫だよ」そう俺に言ってくれているようで、勝ち負けとか、そんなくだらない事を気にしていた自分が、どんどん小さくなっていくのを感じた。
全部上手くいかなくて当たり前だよな。とりあえず、明日も馬鹿な友人と馬鹿な事して笑えればいいや。
そんな事を思いながら、俺はおばさんに挨拶をし、咲の家を出て行った。
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