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「幸?」
心配そうな咲の柔らかい声。
この声を聞くのは俺だけでいい。
ここに高橋がいる事、咲の目線の先に高橋がいる事、高橋が咲に触れる事。本当は大したことないはずなのに、どうしようもなくそれらが俺の焦燥感をかりたてる。
「ゆうやくん。ごめんね。ちょっと、幸、嫌なことあったみたい」
「……うん。少し驚いたけど、大丈夫。気にしないから」
「ありがとう」
「じゃあ、俺、そろそろ行くな」
「うん、じゃあね」
「おう、また明日」
その後、高橋が部屋から出て行く音がした。
俺は変わらず咲を抱きしめながら咲の肩に顔を埋める。
「幸、ちょっとくすぐったい」
少し咲が身じろぐが、俺は咲を抱きしめる力を緩めない。
「ゆうやってよんでんの?」
「うん、ゆうやくんがそう呼んでって」
「……俺の前では、高橋の事ゆうやって呼ばないで」
「ん」
高橋がいなくなってからも、胸のざわつきは消えず、焦燥感もなくならない。どうしようもなく我儘なことを言っている事に気づいてはいたが、言うのを止められなかった。
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