第3章 気付く

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「幸?」 心配そうな咲の柔らかい声。 この声を聞くのは俺だけでいい。 ここに高橋がいる事、咲の目線の先に高橋がいる事、高橋が咲に触れる事。本当は大したことないはずなのに、どうしようもなくそれらが俺の焦燥感をかりたてる。 「ゆうやくん。ごめんね。ちょっと、幸、嫌なことあったみたい」 「……うん。少し驚いたけど、大丈夫。気にしないから」 「ありがとう」 「じゃあ、俺、そろそろ行くな」 「うん、じゃあね」 「おう、また明日」 その後、高橋が部屋から出て行く音がした。 俺は変わらず咲を抱きしめながら咲の肩に顔を埋める。 「幸、ちょっとくすぐったい」 少し咲が身じろぐが、俺は咲を抱きしめる力を緩めない。 「ゆうやってよんでんの?」 「うん、ゆうやくんがそう呼んでって」 「……俺の前では、高橋の事ゆうやって呼ばないで」 「ん」 高橋がいなくなってからも、胸のざわつきは消えず、焦燥感もなくならない。どうしようもなく我儘なことを言っている事に気づいてはいたが、言うのを止められなかった。
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