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―夜、食卓いっぱいにご馳走が並んだ。 「正月でもないのに、やり過ぎだ」 父はそう言いながら、席に着く。 母は嬉しそうに瓶ビールを出してきて、開栓する。 俺も席に着いて、母からグラスにビールを注いで貰う。 「あの子大丈夫だった?」 俺が問い掛けると、父はチラッとこちらを見た。 「あぁ。大丈夫だ」 そう言って食事をはじめる。 父にもビールをと瓶ビールを手に持ったが、母に止められる。 そうだった。 父は酒を飲まない。 24時間いつでも対応できるように、この診療所をはじめた時にお酒を絶っていた。 「勇輝がここ継いでくれたら飲めますよ。もうすぐですよ」 母は嬉しそうに父に言う。 「まだ先は長い」 父はそう言いながらも少し顔が緩んでいた。 玄関の方から音がして、間もなく扉が開く。 「ただいま―…兄貴?」 弟の勇輝の帰宅だった。 「おかえり、今食べはじめたところだから、手を洗ってらっしゃい」 母は勇輝にそう言う。 「…何かあったの?」 勇輝が俺に心配そうに問い掛ける。 「何もねぇよ」 俺の応えに、勇輝は少しホッとした様子だ。 「何もなくたってたまには帰ってくるわよねぇ?」 母は笑顔を俺に向ける。 勇輝は手を洗いに洗面所へ行った。 「しっかり食べろよ」 父が俺にそう言う。 借金のことなんて言えるはずがない。
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