9/21

2950人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
俺は重い足取りで、結の実家近くの公園に向かった。 親には言えなかった。 もう、結しか居ない。 公園に辿り着いてベンチに座ると、暫く公園の風景を眺めた。 結に借りれるはずがない。 そう思いながらも、誰かに相談したかった。 助けて欲しかった。 俺はスマホを取り出して、結に電話をする。 この公園に居ると伝えると、少し声が弾み、すぐに来ると言った。 結は本当にすぐに出てきて俺に駆け寄り、隣に座る。 少し、胸が痛む。 「お母さんどう?」 「うん、大丈夫。一般病棟に今日移ったの」 「良かった」 俺は結の手を取って、握った。 「一輝…何かあった?」 直ぐに応えれなくて、どう切り出そうか迷う。 こんなこと許されるわけない。 「一輝?」 結は俺の方を覗き込むように身体を向ける。 一人で抱え込むのは限界だった。 「悪い。こんなタイミングでする話じゃないんだけど…」 結の表情が強張る。 「話して。何があったの?」 真っ直ぐ見られた目をそらす。 「失敗した」 「えっ?」 「大損した」 結は何の話か検討がついたようだ。 「ゴールデンウィーク前に大損して、取り返すために海外の方にも手を出したんだけど、それも上手くいかなくて」 話していくと、結の表情が曇っていく。 「貯金全部でも足りなくて、親に借りに来たけど、言えなかった…」 いい加減、見捨てられるかもしれない。 「…いくら足りないの?」 「そんなこと聞いてどうすんだよ」 「いくら?」 「……400万」 その金額を聞いて、結は驚いていた。 「どうするの?」 「どこでも貸してくれるとこで、借りるよ」 結にも貸して欲しいとは言えなかった。 「俺、ホントにバカだよな…」 結にまで見捨てられたら、俺はもう何もなくなる。 突き放されるのがこわくて、俺は先に結から手を離して頭を抱え込み下を見た。 結は何も言わない。 ただ静かに時間だけが流れた。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2950人が本棚に入れています
本棚に追加