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とにかく酒を飲んで、頭の感覚を麻痺させた。 そうしなければ押し潰されそうだった。 ほんの数ヵ月前まであった自分の自信はどこに行ったのか。 【今晩、仕事が終わったら行きます】 結からのLINEにスタンプで返事をする。 別れ話かもしれない。 それかならそれでいいと思う自分と、そうじゃない自分の間で苦しむ。 そしてまた酒を飲む。 結がうちに来た頃にはだいぶ俺は酔っていた。 扉を開けて、結が部屋に入るなり俺に封筒を差し出した。 中身が400万なことは安易に想像できた。 「借りて何とかしたから大丈夫だよ」 見捨てられると思っていたのに、結は持ってきてくれた。 その眩しいくらいの気持ちに俺は背を向ける。 こんなヤツ、捨てられてもおかしくないのに。 「利子の高いとこでしょ?」 結は俺の方に回り込み、俺の手を取って、封筒を握らせた。 「危ないとこでしょ?」 結の手の温もりが伝わる。 「これで返して来て。私なら利子なしで貸してあげれるから」 俺の目を真っ直ぐ見る。 「ね、一輝」 俺はぎゅっと封筒を掴んだ。 「ごめん、結」 強く目を閉じて、歯を食い縛った。 情けなくて、惨めだった。 俺は結を抱き締める。 それでも孤独で不安で、苦しかった。 そんな俺を彼女は救ってくれる。 「ごめんな、結」 結が抱き締め返してくれる。 「ううん、大丈夫だよ」 そう言って、強く強く抱き締め返してくれる。
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